慰霊のことば(令和2年度)

by 橋本泰邦   2020年11月1日投稿   2020年11月6日更新   編集する

菊月乗組生存者遺族を代表して、また駆逐艦菊月会の会長として、菊月ほか睦月型諸艦及び共に戦場を駆け抜けた方々の命に謹んで慰霊のことばを捧げます。 菊月をはじめとする睦月型駆逐艦を自らの起源に持つ全ての人の手で慰霊祭を行ないたいとの想いから、駆逐艦菊月会の名のもとに集い、かつて先達が拓いた道を辿ること三年、今日お集りの方々のほか、多くの方からご協力を得まして、ようやくこの九段の丘で皆様に語り掛けるに至りました。 今年、世界は未曾有の疫禍に襲われ、多くの慰霊祭が止むを得ず取りやめとなりました。 そのような中でこの場を設けることができましたことは、ひとえに関係者各位のご尽力と御霊のご加護によるものであると信じます。 皆様への敬意を表しますとともに、ここに眠る御霊の安らかなることをお祈りいたします。

おかげさまで、昭和二十年から七十五年もの長きに亘り、私どもは、戦無き世を歩んでくることができました。 平和に過ごせる中、戦争の惨禍は次第に人々の心から遠ざかって参りました。

そのような中、目を向けたいのは、全ての存在において、忘却とは、第二の死である、ということです。 よく、人の死は、一度目は、肉体の死、二度目は、その死さえも忘れ去られたとき、と申します。 私どもは、この平穏な日々を与えてくださった皆様を二度も死なせてはなりません。 そのためにも、戦争の惨禍を、私どもの世代で忘れ去ることなく、次の世代に、語り継ぐべきことは語り継いでいく、それが、私どもの務めであると信じます。 現在においてなお世界中の国々で戦争の惨禍は続いています。 平和な日本がいかに生まれたか、戦争を知る世代が去っていく今、その過渡期にいる私どもにこそ、皆様が辿らなければならなかった道について考え、後世に伝える義務があると考えます。

厳冬の時代を偲び、その雪解けに至るまでについて考える機会が次の世代へ確実に継承されることを、春を望む私どもは強く願います。 そして、あの様な惨禍は二度と繰り返さぬ様努めて行くことをここに誓います。 この平穏なる日々が皆様の尊い犠牲の上に立つことに想いを致し、ここに皆様の御霊安らけきことを心の底よりお祈り申し上げまして、慰霊のことばとさせていただきます。

令和二年十一月一日

駆逐艦菊月会 会長 橋本泰邦